2017年10月31日

11月の営業予定

11月の営業予定は以下のとおりです

毎週 月曜日 火曜日 及び 29日(水)が 休業日 です
11月営業日.gif



石臼碾き手打そば 「 百日紅 」



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2017年10月20日

夢 第十夜 千年前のラブレター

棚田の思い出を大切にするあまり

皿を押さえる指先に少々力が入り過ぎたようだ

来たときと同じように白く厚い雲に突っ込んだ時

ココ丸の体が大きく揺れ

私はあわててポケットから手を引き抜いた

その時 まだ柔らかい皿の端を少し欠いてしまった

指先の感触でわかった

しまった と動揺する私の鼻先を

マスターが淹れた深煎りコーヒーの香りがくすぐった

「ココ丸 元の世界に戻れるのか?」

「大丈夫 この香りを辿っていけば帰れる たぶん」

頼もしくも 怪しげな竜神様の首にしがみつきながら

私の心はまだ棚田の上を飛んでいた

私は恋をしたのだろうか

70歳を過ぎたゲーテは17歳の少女に恋をしたという

ならば私が棚田の少女に恋をして何が悪い



マスターの豪快なくしゃみで目が覚めた

私はテーブルに突っ伏していた

ゆっくり頭を上げると目の前にココ丸がいた

「無事に戻ってこられたんだね」

しかしココ丸は人形のように黙っている

そこにいたのは 動かないし 空も飛ばない ただの人形だった

あれは夢だったのか あまりにもリアルな夢

手の平にはまだ鱗の感触が残っている

よくドラマなどで 夢の中でもらった手紙や折り鶴が

ポケットから出てくるシーンがある

そうだ 私はポケットの中を探った 

しかし 何も入ってはいなかった


テーブルを挟んで私の向かいに座っていた客が 

読んでいた新聞を置いて店を出て行った

何気なく開かれたページの見出しを見て 

私の目はその記事にくぎ付けになった


『平安和歌刻んだ土器が出土 ひらがなの伝播知る手がかりに』

そして タイトルの下に掲載されている写真は

紛れもなく 棚田の少女が私にくれた あの皿であった

皿の左下の一部が欠けている

はっとして 私はもう一度ポケットの中を慎重に探った

あった 小さな欠片がひとつ

指先でつまんで取り出すと 表面に「み」らしき文字が読み取れる


記事によると 

「ナンダカ遺跡で発掘された皿は

平安中期の10世紀ごろに制作されたとみられ … 」

あれは平安時代だったのか

皿に書かれた文字は やはり和歌だった
 
「一部が欠けているものの 欠けた部分の文字は「み」と推測され … 」

そうだ 「み」 だ  正解である

皿の上でうねった文字は 整った和歌に読み解かれていた


我により 思ひくゝらむ 絓糸(しけいと)の あはずやみなば 更ふくるばかりぞ


「恋歌のようにも見えるが、都からきた国守が別れの席で

地方の有力者に配ったものではないか」

博物館の館長は推測している

おっさん が おっさん に送った歌とは思えないのだが

また別の研究者の見解は

「粗末な絹糸を意味し、恋の和歌で用いられる「しけいと」という言葉があり、

惜別の思いを詠んだとみられる」

そうだ 恋の和歌だ 

少女が私にくれた恋の和歌

私がもらった千年前のラブレターだ


いとおしい土器の欠片をそっとハンカチで包み 

もう一度ポケットにしまった

「楽しい夢をありがとう」

ココ丸の鼻先を人差し指でチョンと突いて 店を出た

雨は上がり 青空が戻っていた

店の入り口に置かれた看板を見て

その時初めて 店の名前を知った 

「珈琲茶房 壺中」

そうか 壺々丸(ここまる) だったのか

私はもう一度ポケットの中身を確かめると 

朝市通りを海に向かって歩き出した



石臼碾き手打そば 「 百日紅 」



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2017年10月19日

夢 第十夜 千ラブ 「田毎の月」

最後の田に足を踏み入れようとした時 

少女が私の腕をつかんで首を横に振った

「マタァアスゥニ」

「マタァアスゥニ」が「また明日に」に変換されるまでしばし間があった

日本語離れした発音である

「また明日に」 あした?

「いま」が永遠に続けばいい

これはこんな時に言うセリフだと思った

このままここで生きていくのも悪くない


「もう帰らなくちゃ」

野暮な竜神様の一言で 現実に引き戻された

私はココ丸と共に 湧き水の傍らに立っていた

少女は干してある土器の皿を一枚一枚指で触れて

何かを確かめていた

「さあ行くよ」

ココ丸が畳んでいた足を伸ばして離陸体制に入ると 

少女が慌てて声をかけてきた

「マティタマァエヤ」

「マティタマァエヤ」これは「待ちたまえや」だな 慣れてきたぞ

少女は干してある皿の一枚を取ると 

竹串のようなもので皿に何やら書き始めた

乾いているところは硬くて彫れないので 

まだ柔らかいところを選んで書いているようだ

急いで書いた文字が皿の左半分に無理やり詰め込まれ 

うねっている

ココ丸の鼻先で尻をつつかれた私は

渋々ココ丸の背中にまたがった

そして少女が差し出した皿を受け取った

ひらがなのようだ なんとか読める 

しかし 悔しいが理解できない


われによりおも

ひくくらむしけい

とのあはすやみ

なはふくる

はかりそ



もし和歌ならば 字配りはめちゃくちゃだ

でも少女がくれた大切な贈り物

そっと上着のポケットにしまい

彼女の瞳を真っすぐ見つめ 

出来る限り優しい声で言った

「ありがとう さようなら」


「じゃあ行くよ おじさん」

「こんな時 おじさん って呼ぶな」

「だぁって おじさんでいいよ って言ったじゃん」


私はココ丸に頼んで 棚田の上をゆっくり飛んでもらった

澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み

最後にもう一度少女を見ようと探したが

彼女の姿はどこにもなかった

日はすっかり暮れ 最後に一枚だけ植え残した田の水面に 

上弦の月が映っていた

そしてその月影が 隣の田へ移り そのまた隣の田へ移りしながら

飛んでいる私を追うようについてきた

少女が月影に姿を変え 私を追いかけてきたのだ きっとそうだ

田毎の月とは こういうことを言うのだなと その時わかった



石臼碾き手打そば 「 百日紅 」



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