2017年10月18日

夢 第十夜 千ラブ「千枚田」

みごと変身を遂げ 生臭い息を吐く巨大なココ丸に 私は恐る恐る近づいた

「背中にまたがって 首につかまって!」

体はでかくなっても 可愛らしい声はそのままだ

私が背中にまたがったことを確かめもせず ココ丸は上昇し始めた

あやうく置いて行かれるところだった

この竜神様 かなり短気な性格のようだ

天井を突き抜け 屋根を突き破り 雨雲を蹴散らし 

真っ青な夏の空をグングン昇っていく

ココ丸の首は私が両手をまわしてちょうどいい太さだが

振り落とされないようにしがみついているのがやっとだ

鱗がチクチクして痛い

やがて真っ白な厚い雲の層に突っ込んだ そして

マスターが淹れる深煎りコーヒーの香りが鼻をかすめたかと思うと

厚い雲が晴れ 眼下に棚田が広がっているのが見えた

狭い崖地に小さな田が何枚も

海に向かってなだれ込むように並んでいる

空は限りなく青い いや碧い そして空気も 澄んだ味がする

さっきまで 鼻から吸っていた空気とは何か違う

もっとピュアな 原始の味 太古の味

太古の風を切ってココ丸は棚田を見下ろす丘の上に降り立った

下の棚田へ水を送る湧き水が流れ出ていて 

その脇に土で作った皿が何枚も並べて干してある

皿はCDくらいの大きさで 乾き始めたところと まだ乾いていないところが

皿の表面にまだら模様をつくっている

大きさも均一ではないし 丸い形もややいびつなので 

土器と呼ぶのがふさわしかろう

何に使う皿だろう

あたりに人影はない

「おい 千枚田に行きたいと言ったのに ここはどこだ」

「う〜ん ボクにもよくわからない 

さっき雲の中でコーヒーの香りがしたでしょ ボクの大好きな香り 

あの時どうやら道を間違えたみたいなんだ」

「じゃ 私たちは迷子か?」

その時 どこからか唄が聞こえてきた

フォトトギスヨオレヨカヤトゥヨオレナキテゾワレファタニタトゥ

女の人の声だが ちょっと低い声でゆったりと唄っている

しかし 何を唄っているのかさっぱりわからない

そのまるで異国の言葉のような響に誘われて

気付くと私は田んぼの畦に立っていた

目の前では 盆のような平たい編み笠を頭にのせた少女が

ひとりで田植えをしていた

着ているものは着物のようにみえる

どうやら私たちは道に迷ったのではなく 

時間を間違えたようである

少女は苗をひとつ植えると一歩後ずさりして また次の苗を植える

体を二つに折り曲げて 後ろ向きに進んでいく

私が聞いたのは、この少女が唄っている田植え唄だった

フォトトギスヨオレヨカヤトゥヨオレナキテゾワレファタニタトゥ

何度聞いても 何を言っているのかわからない

私はしばらくぼんやりと少女の田植えを見物していた

少女は私に気が付くと 田の上を滑るようにして近づいてきた

田んぼの泥に足を取られることもなく

そして苗をひとつ無言で私に差し出した

その手は田んぼの泥で汚れてはいなかった

田植えを手伝えということらしい

美しい少女だった

陶器のような白い肌 ほんのりと染まった頬の桃色が

さらに肌の白さを際立たせている

切れ長の目の上に 三日月眉が行儀よく並んでいる

唇は小さくぽってりとして 薔薇の蕾を思わせる

白雪姫が日本人だったら きっとこんな顔に違いない

ふと ぽーっと見とれている自分に気づいて我に返り 

年甲斐もなくどぎまぎしてしまった

私は慌てて苗を受け取り 靴を脱ぎ 靴下を脱ぎ 

ズボンの裾をまくり上げ 田んぼに足を突っ込んだ

春の田の水はひんやりとして 

のぼせた頭を冷やすのにちょうどよかった

少女に後れを取らぬよう 

私は必死でひとつ苗を植えては一歩後ずさりしてまた植えた

どんどん後ろへ進む 少女と並んで進む

聞こえるのは 鳥のさえずりと波の音だけ

少女は時折私を振り返り 軽く微笑む

薔薇の蕾が軽くほころぶ

私はぽーっとする

どれくらい時間が経っただろう

苗を植え残した田があと一枚になった

いつしか日は傾き 海に沈む夕日が棚田を朱色に染めていた

ココ丸のことなどすっかり忘れていた



石臼碾き手打そば 「 百日紅 」



posted by 蕎麦屋の女将 at 21:27| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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