2017年08月07日

死戦期呼吸

今日は ちょっと生々しいお話です


父が亡くなる時 死戦期呼吸 を目撃しました

当時わたしは両親の家から歩いて3分もかからないところに住んでいて

在宅介護を受けている父の様子を 日に何度も見に行っていました


その日も夕方

「またあとで来るからね」と声を掛けると

ベッドに仰臥したまま 右手の肘から先を振って答えました

「分かった またあとで」 というサインです

でも結局これが最後のバイバイになりました

1時間後にもう一度見舞ったときは既に意識はなく

いくら呼びかけても反応はありませんでした

この時 目は閉じていました


やがて 死戦期呼吸 が始まりました

この時 目は開いていました

今思えば あれが 死戦期呼吸 というものだったのですね

動画などでみると 

当然 生きている人が再現しているわけですが

下顎が動いています

でも父の場合は 上顎が上下していました


頭をのけぞらせるようにして 大きく口を開け 閉じる

これを 何度か繰り返しました 6〜7回くらいだったでしょうか

ゆっくりとした四拍子 だったような気がします


何度目かの時 父は自ら瞼を静かに閉じました

この時 父には 母と私の声が聞こえていたかもしれない

やがて動きが止まったので 少し開いたままになっている口を

右手でグッと押して 閉じようとした時

もう一度 父の上顎が動きました

びっくりして 私は手を放しました

でも それが最後でした





ラベル:死戦期呼吸
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2017年04月27日

夢 第九夜 古道具屋

どうしても 本の続きが気になって

ハンチング老人は 翌日 再びあの古本屋に足を運んだ

ところが ない

古本屋が ない  いくら探しても ない

たしかに古本屋があった場所には 古道具屋が店を広げていた


途方に暮れて店先に立っていると 奥から中年の男が出てきた

「何かお探しですか?」

「あっ いや 確かここには 古本屋があったはずだが … 」

「古本屋? ここは親父の代から 古道具屋ですよ

近頃じゃ リサイクルショップ なんて呼ばれてますけどね

古本屋かぁ そういやぁ 親父の子供の頃は 古本屋だったと

聞いたことがあるな  昭和三十年頃のことですけど」

昭和三十年 と聞いて 老人の眉が微かに動いた

「旦那さん オシャレじゃないですか ハンチングなんか被っちゃって

どうです この姿見 フレームがクルミの無垢 なかなか良いモノですよ」

「浦島太郎に 鏡はいらないよ」

老人は 元気なく 今来た道を帰っていった


「これ いくら?」

口をポカンと開けて ハンチングを被った浦島太郎の後ろ姿を見ていた店主は

慌てて 声のする方を振り返った

サラリーマン風の ちょっとくたびれた男が 姿見を指さしている

早速 値段の交渉が始まった



薄暗い 古道具屋の一番奥 レジカウンターの後ろの壁に写真がかかっている

色あせて埃をかぶった 四つ切サイズの モノクロ写真

二十代から三十代の若者が 数十人写っている

前列中央には 

懐中時計の鎖をのぞかせたグレイヘアの男が 二眼レフカメラをこちらに向けている


カメラのレンズが 次にフォーカスするのは

あなた  

かもしれないsobaya.jpg



鏡の中の蕎麦屋は こちら からどうぞ



石臼碾き手打そば 「 百日紅 」








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2017年04月26日

夢 第八夜 古本屋

古いインクと紙の匂いが カビ臭い空気と混ざりあって

狭く薄暗い店内に満ちていた

客の視線は もうかれこれ一時間近く 一冊の本にそそがれている

古本屋の店主は 膝の上で 何やらいじっているが

時折 作業の手を止めて 眼鏡越しに 客の様子を伺っている

ひょろりと背が高く 痩せたその客は 

ハンチング帽を被っているので 頭髪からは判断できないが

足腰はしっかりしているものの

頬 喉元 手の甲などの肌からみると 八十歳近い老人だ


店主は ポケットから懐中時計を取り出すと チラッと文字盤を確かめ

「お気に召しましたかな?」と 声をかけた

客は その声にようやく顔をあげた

「やっ これは失敬 ずいぶん長いこと 立ち読みをしていたようだ

すっかり夢中になってしまって

あの これは この本は … 」

「えぇ それはあなたの本です

いくら読んでいただいても かまいませんよ」

店主は椅子から立ち上がると ゆっくり客に近づきながら尋ねた

「どこまで読みましたか?」

「この店に入ってきたところまで」

「なるほど では 続きは 明日にしましょう」

そういうと 右手を客の手元に差し出した

少し残念そうな表情で本を閉じると 客は素直に応じた

店主はそれを受け取ると 先ほどまで座っていた椅子にもどりながら

客に背をむけたまま

「向こう側にいれば 永遠に二十歳の青年でいられたのに」 ポツリと呟いた

「いやぁ 疲れました もう十分です

どうやら 私に残されたページは あとわずか

これで楽になれる ようやく楽になれる

そう思うと いま 心はとても安らかなのですよ

ただ 一つだけ気がかりなのは … 」

席に戻った店主は 次の言葉を促すように 客を見た

「私の身代わりとして 犠牲にしてしまった 若者のことです」

「あぁ あの蕎麦屋ですか 彼ならいま 鏡の中

毎日 大好きな蕎麦を打って 結構楽しく生きてるようですよ」

「鏡の中 の蕎麦屋 ですか」


その時 客は 店主の後ろの壁にかかった 写真に気がついた

四つ切サイズの モノクロ写真で 二十代から三十代の若者が 数十人写っている

前列中央には 若かりし頃の自分が 

右手の拳を振り上げて 大きな口を開けて何やら元気に叫んでいる

その隣には 彼よりだいぶ背の低い 顔の造作が下半分に集まって

まるで福助人形のような顔をした男が

目と口元に 不気味な笑みを浮かべ こちらを見つめている

白い和帽子を被り エプロンを着けているところをみると こいつが

身代わりになって 鏡の中に入り込んでしまった 蕎麦屋らしい


「明日 また いらっしゃい」

名残惜しそうに店を出ていく客の背中を見送り

自慢のグレイヘアを手ぐしでかきあげると

店主は 再び 手元の二眼レフカメラのレンズを磨き始めた



石臼碾き手打そば 「 百日紅 」



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