2017年10月17日

夢 第十夜 千ラブ 「ココ丸」

通り雨に追いかけられ 朝市通りのはずれにある珈琲店に飛び込んだ

雨を降らせた張本人が そこにいるとも知らず

店の奥にはカウンター席もあったが 中央の大きなテーブルに座り

モーニングセットを注文した

「45年やってます」というマスターそのものが骨董品にみえる

薄暗い店内のそこかしこに45年の歴史が堆積していた

開店当初 音響メーカーに特注して作らせたというスピーカーは

使い込まれ 柔らかな音でジャズを奏でている

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自家焙煎した深煎りのコーヒー豆が入ったガラス瓶がいくつも並び 

どれも飴色に輝いている

いや コーヒー豆に見せかけた 魔法の秘薬かもしれない

「愛の妙薬」はどれだろう

そして極めつけは、カウンター席のレンガの床

長年 椅子の足で削られ続け へこんで一筋の溝ができている

あのレンガの溝に なにやら謎が隠されているのかもしれない

例えば 時空の歪みとか...

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45年も経っていれば なにかひとつくらい そんな秘密があってもよさそうである

妄想の一人遊びをしていると 珈琲の香りと トーストの芳ばしい匂いが店内に漂い

マスターが盆を運んできた

盆の上では、コーヒー・トースト・殻を剥いたゆで卵 そして塩の入った小さな瓶が

おしくらまんじゅうしていて 紙おしぼりがはみ出していた

何とも色気のないモーニングである

それでも 私の空の胃袋を満たすにはこれで十分である

やや深煎りのコーヒーを一口啜る

始めに感じた苦みはやがて甘い香りとなって口の中に広がっていく

北陸の海沿いの小さな街でこんなに美味しいコーヒーが飲めるとは思わなかった

伊達に45年ロースターやってないな マスター

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二切れ目のトーストにかぶりついた時 何やら視線を感じ目を上げると

テーブルの上に置かれた 竜の人形と目が合った

松笠で作った鱗がリアルで なかなかよくできている

「さっきの雨 ボクが降らせたんだ お店 暇だから

傘を持ってないお客さんが入ってきてくれるといいなと思って

おじさん 少し濡れちゃったね ごめんね

ボクは “ココ丸”  おじさんは?」

人形が喋った

「私は... いや “おじさん” でいいよ」

これは面白くなってきたぞ

頭の中で 今までに見たことがある竜の絵をいくつか思い出してみたが

どれも恐ろし気なものばかり

でも いま私の目の前でモーニングの盆を覗き込んでいる竜神様は

なんとも可愛らしく 愛嬌がある 

畳んだ尻尾をのばせば 体長30センチといったところか

生意気に口の周りに髭が生えていて

前足で黄色いテニスボールの様な珠をつかんでいる

「お前しゃべれるのか じゃあ、空も飛べるか?」

私は思わず身を乗り出した

カウンターの奥でカップを洗っているマスターには

私たちの会話は聞こえていないようだ

うつむいた禿げ頭が妖しく光っているのみである

ココ丸は そっとマスターの方に視線を走らせ 声をひそめた

「ボク マスターが淹れるコーヒーの香りが大好きなんだ」

「そんな事聞いてない 空を飛べるのか?」

私もつられて内緒話でもするようにココ丸に顔を近づけた

「私を背中に乗せて空を飛んでくれたら 雨を降らせたことを許してあげよう」

まるでおとぎ話のような展開である

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「どこに行きたい?」 話の分かる竜神様だ

壁にかかった千枚田の版画が目に留まったので 私は子供のように無邪気に答えた

「千枚田 昨日も見てきたけど 日本海に沈む夕日を背景に もう一度千枚田が見たい」

私の話を最後まで聞かず ココ丸の体は地鳴りと共に膨張し始めた

テーブルからあふれ出した体は床へこぼれ落ち 

奥のカウンターに向かってみるみる伸びていく

ココ丸の尻尾が当たったモーニングの盆はテーブルから滑り落ち

ついでに私も椅子から転がり落ちた

いったいどこまで大きくなるのか

私は腰を抜かしたまま ただただ見守るばかりであった

やがてココ丸の体は謎のレンガの溝にすっぽりとはまり込み成長を止めた

地鳴りも治まり 店の中は静まり返った

時空の歪は やはりここにあった



石臼碾き手打そば 「 百日紅 」





posted by 蕎麦屋の女将 at 18:09| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月05日

のと里山海道 千里浜なぎさドライブウェイ

朝晩 すっかり秋めいてきてしまって

夏のメニューを抱えてオロオロしている そば屋でございます

そこで

夏の日を惜しんで 日本海から 潮風をお届けします





夏限定メニューは まだしばらく続けるつもりです

どうぞよろしくお願いいたします


石臼碾き手打そば 「 百日紅 」



posted by 蕎麦屋の女将 at 17:45| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月07日

死戦期呼吸

今日は ちょっと生々しいお話です


父が亡くなる時 死戦期呼吸 を目撃しました

当時わたしは両親の家から歩いて3分もかからないところに住んでいて

在宅介護を受けている父の様子を 日に何度も見に行っていました


その日も夕方

「またあとで来るからね」と声を掛けると

ベッドに仰臥したまま 右手の肘から先を振って答えました

「分かった またあとで」 というサインです

でも結局これが最後のバイバイになりました

1時間後にもう一度見舞ったときは既に意識はなく

いくら呼びかけても反応はありませんでした

この時 目は閉じていました


やがて 死戦期呼吸 が始まりました

この時 目は開いていました

今思えば あれが 死戦期呼吸 というものだったのですね

動画などでみると 

当然 生きている人が再現しているわけですが

下顎が動いています

でも父の場合は 上顎が上下していました


頭をのけぞらせるようにして 大きく口を開け 閉じる

これを 何度か繰り返しました 6〜7回くらいだったでしょうか

ゆっくりとした四拍子 だったような気がします


何度目かの時 父は自ら瞼を静かに閉じました

この時 父には 母と私の声が聞こえていたかもしれない

やがて動きが止まったので 少し開いたままになっている口を

右手でグッと押して 閉じようとした時

もう一度 父の上顎が動きました

びっくりして 私は手を放しました

でも それが最後でした





ラベル:死戦期呼吸
posted by 蕎麦屋の女将 at 22:55| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする